医学部に行くためには、理科が2科目必要だった。
化学・物理・生物の中から2科目を選ばないといけなかった。化学、物理、生物の他に『地学』があるけども、地学は大学によっては選択科目に入らないことがあるので、これは選択出来なかった。
理系を選んだ人は、化学と物理を選ぶ人が多く、理系が得意な数学が使える分、物理を選択した方が効率が良いと言われていた。数学を使えば物理は比較的得点しやすい科目なので、数学が得意な人はみんな物理を選択していた。
だけど、自分は化学と生物を選んだ。正確に言うと、生物を選ばざるを得なかった。自分は医学部を目指した時、三平方の定理さえも『ナニソレ?ヘイホー?』っていうくらい数学が絶望的な状態で、『sin、cos、tan?なんかハッカーみたいでカッコイイ!!』とか意味不明なことを言っていた。それくらいの低脳ぶりを発揮していたため、数学を言語として用いる物理は断念せざるを得なかった。
中二病の自分としては、黒板とかに数式とか書くのがカッコイイので物理を選択したかったけども…。それに物理解ける男子はなんかすごくモテる気がした。
そんな中二病ど真ん中の物理の代わりに選んだのが、『生物』だった。
生物は、ビジュアル系な学問だった。
基本的に、イメージをすることが大切な科目で勉強も絵やイラストを視覚的に理解することが中心だった。ちょっとグロいカエルの発生から、解剖学、細胞や微生物まで幅広く暗記しなければいけなかった。
残るセンター試験は、化学と生物。
ここまでくると、もう緊張感はなかった。何せ2回目のセンター試験だったので
『それでは、始めて下さい』
理科一科目目の化学が始まった。
化学は、計算と暗記が半々で出てくる。
化学の計算については、センスはいらない。問題文に書いてあることをなぞって絵を描き、答えまでのおよそのルートを想像し、力業でゴリゴリ計算していけば答えは出る。正解するだけならば、スマートに行く必要はない。あとはその過程を訓練でより効率的に、迅速に、最短距離にしていけば良かった。そういった意味で計算問題については安定感があった。
問題は『暗記』の部分だった。いつも1〜2問、特に無機化学の分野で暗記ミスや勘違いが出てきて失点することがあった。
化学は、模試でもいつも時間内に解くことは出来た。
ただし、計算について見直しする時間の余裕はいつもなかった。
『筆記用具を置いてください』
化学の試験が終わった。何度も見直したが、暗記問題で2問ほど怪しい所があった。絶対的な自信が持てない問題。そのうちの1問を落とし、さらに自信を持って解答した問題で計算ミスがあり、1問落としていた。
化学は92点で通過した。
化学の試験が終わって、休憩を挟んで生物の試験が始まる。
いよいよ、センター試験最後の科目。
センター試験の生物は、8割暗記の科目だ。遺伝の問題など、計算は2割弱しか出ない。
生物は、ただ覚えれば点数が取れる教科だったので、8割くらいはすぐに採れるようになる科目だった。逆を言えば、9割以上、特に満点を取ることが非常に難しい科目だった。どんなに勉強しても知らないことが出たら速攻で点を落としてしまう。
どんな結果になろうとも、これが人生最後のセンター試験になる。
そう考えると感慨深いものがあった。
若い高校生に混じって戦うのも悪くはないのかもしれない、最後まで同じ空間で競い合った高校性、浪人生がちょっと愛おしくなった。女子高生可愛い
『でも絶対、ぶっ倒すけどなあああああああっ!!』
センター試験 最後の科目、僕はみなぎっていた。
数学の試験で計算ミスをしたかもしれない。
化学で何問か失敗したかもしれない。
そもそも前日の英語や国語でミスをしているかもしれない。
でも、そんなことは関係ないっ!!
ここまで来たんだから、最後まで突っ走るのみっ!!
全員倒して、センター試験突破するっ!!
問題用紙が配られている間も、気持ちは高ぶっていた。
『それでは、始めて下さい』
いよいよセンター試験最後の科目が始まった。
暗記の問題は瞬殺する。遺伝の問題には、じっくりと時間をかけて計算する。
暗記があいまいで、『多分こっちが正解…だと思う』といった感じの危ない所もあった。
でも、最後まで自分を信じた。
一問一問、丁寧に解いた。今までの全部を出し切るように。
『センター試験の生物はな、基本は暗記だが、思考力を聞いてくる問題が結構ある。覚えていないといって焦らなくてもいい、考えろ!!推理して乗り越えろ』
予備校の生物の先生は、いつも言っていた。生物は好奇心だと。
神様が設計した生き物たちを理解して、神様の存在を感じることが出来れば勝てると。
最初、その言葉を聞いた時には、『やばい先生に出会ってしまった…』と思っていた。
だけど、2年間勉強した 今ならわかる。地球上の生物は、その生物をデザインした唯一の設計者がいて、どんな生物も似たようなデザインの癖みたいなのがあった。その設計をした人が、いわゆる『神』であり、そのデザインのルールが、進化の方向性や自然の成り立ちを決めていた。
受験する前、まさか自分がこんな考えをするとは思ってもいなかった。
たった2年で随分と変わってしまった。そう思うと、何か不思議な感じがした。
一通りマークシートを塗りおえた後、ふと天井を見上げた。
乾いた暖房の空気、鉛筆がマークシートと擦れる音
とうとう、センター試験が終わる。
『筆記用具を置いて下さい』
この瞬間、僕の2度目のセンター試験が終わった。
いつもの模試のような手応えはあった。しかし同時に、理科は2教科とも満点ではなく、失点があることを覚悟していた。
生物は92点で通過となった。