カモ『あの…みのりさんが何を考えているのか、なぜそんなに苦しんでいるのか、教えてくれませんか?』
みのり『それは…カモ先生には言えません、ごめんなさい。』
カモ 『白鳥さんには言えるんですか?』
みのり『・・・・・。あの人は…あの人はですね…』
みのりさんは、返答に困っている様子だった。
カモ 『今まで一緒にやってきたじゃないですか、楽しい時も辛い時も一緒に笑いながら。それなのに、どうして言えないなんて言うんですかっ!?』
みのり『それは…カモ先生だから…カモ先生だから言えないんですよっ!!』
カモ『ビクッ!!』
さっきまで賑やかだったカエルの鳴き声が一斉に止まる。
暗闇の中、無音。
さっきまで、鮮やかに眼前にあった みのりさんの顔の輪郭さえも、はっきりと見えない。
自分だから…言えない??
みのりさんは一体何を言っているんだろう…。
混乱しているうちに、タクシーが来た。
みのりさんは自分の方を見ることなく、タクシーに乗り込んだ。
カモは、タクシーに乗り込むことが出来なかった。
みのりさんの隣に座ることが出来なかった。
一緒の空間に存在することが、車内の狭い空間の中でみのりさんと一緒にいることが辛いと思った。
何より、みのりさん自身、自分と一緒の空間にいて言いたくないことを聞かれるのが辛いのではないかと邪推した。
みのり『カモ先生、乗らないんですか?』
一瞬、悩んだがゆっくりと答えた。
カモ 『私は…私は少し頭を冷やしてから帰ります、先に帰ってください。』
みのりさんは一瞬、びっくりした表情を見せた。
みのり『…わかりました。カモ先生、ごめんなさい…。』
みのりさんは、そうつぶやき、タクシーと一緒に夜の暗闇に消えていった。
みのりさんがいなくなった暗闇。
カエルの合唱が再び始まり、みのりさんがいなくなった カモの孤独を埋めてくれているようだった。