#36.物件No.5 狭小駐車場(最終話)

ビックリするカモ

決済は、ニーガン(地銀担当)の勤務する銀行で行われました。

昼過ぎに現地集合だったので、自分とみのりさんは早めに待ち合わせて、銀行の近くにあるカフェでランチをしながら打ち合わせをしました。

カモ 『緊張しますね・・・。』

みのり『そうですね、今回は特に…。』

カモ 『この展開は想定してなかったですね。』

みのり『はい、今回は私の経験不足と知識不足ですみませんでした。』

カモ 『反省会は最後まで終わってからにしましょう。』

みのり『そうですね。とりあえず今は…ごはーーーん!!』

カモ 『ごはーーん!!』

カモはつかの間のデート(とカモは思っていた)を楽しんだ。

カフェのランチは、パンとサラダとスープ、そしてメインディッシュは魚のムニエルだった。

カモ    『この魚、何ですかね??』

みのり『さっきスズキって言ってましたよ。』

カモ 『へぇー。魚なのにスズキって面白い名前ですよね。』

カフェで出てくる魚料理に、それほど期待していなかったけど、意外に美味しい。

みのり『カモ先生、魚を食べてる姿が似合いますね!』

カモ 『みのりさんも、パンを食べてる姿がエロいですよ!』

って言いかけたが、残された時間、みのりさんが小さな口でパンを食べる姿が凝視出来なくなるのは辛いと思ったので、言えなかった。

カモは、デザートの自家製プリンをコーヒーと一緒に胃の中に流し込んだ。

みのりさんは、カラメルソースが苦手らしく、きれいに分離しながら食べていた。

先に食べ終えたカモは、みのりさんがプリンを器用に食べる姿をじっと見つめていた。

このまま取引先に行かずに、ゆっくりデートしたい…。

不動産を買わなくても、いつか二人でこんな風にデート出来る日がくるんだろうか。

(※この時は、今みたいにみのりさんの不動産会社に入り浸ったりしてなかったので、主に不動産の下見や打ち合わせ、取引の時だけ会っていました。)

カモ 『じゃあ行きましょうか、戦場に。』

みのり『大丈夫ですよ、いつも通り、楽しくいきましょっ!!』

カモ 『そうですね、みのりさんもいてくれていますしね。』

みのり『はいっ!!』

きっと大丈夫、みのりさんが一緒にいてくれる。(取引の間だけ)

こっちは女神がついている

(引用:幽遊白書)

重い足取りだったが、一歩一歩着実に決済の場である銀行に向かった。

普段より狭く感じた横断歩道を2つ渡ると、銀行に着いた。

銀行に入ると、どこからともなく、ニーガンが現れた。そしてニーガンに導かれて、銀行の奥の会議室のような場所に通され、奥の席に座るように言われた。

ちょっと早く来すぎたせいか、決済が行われるその部屋にはまだ誰の姿もなかった。

書類と印鑑の準備をして、弁護士さん、司法書士さん達が来るのを待った。

緊張する。怖い人がたくさん来たらどうしよう…。

無機質に置いてある置物一つ一つが、こっちを監視しているようだった。

カモ    『みのりさん、緊張して手が震えてしまって・・・。』

みのり『なんでそんなに緊張しているんですかwww』

カモ 『このままだとサインが出来ないかもしれないので、手を握ってもいいですか?』

みのり『ちょっwwwダメに決まっているでしょwwww』

カモ 『チッ・・・・』

姑息な手段は通用しなかった。

でも、今しかない、乗るしかない、このビックウェーブに!!

カモ 『でも本当、手が震えて…。このままだと書類カケナイヨー』

みのり『そういえば、昔お婆ちゃんが言ってたんですけど、痛み刺激でも震えは止まるらしいですよ、ボールペン刺します?』

カモ    『(((((( ;゚Д゚))))))ガクガクブルブル』

みのり(こいつ・・・なんとかしないと・・・)

そんなやりとりを複数回した頃に、弁護士さん、司法書士さん、宅建士さんが登場した。

今回の取引は、今までの経過だと絶対に怖い人がいっぱい来ると思っていた。

弁護士さんはとても誠実そうで、言葉遣いも丁寧な紳士だった。

弁護士バッジ、カッコイイ…。

弁護士『この度は、色々ご無理を言ってすみません。』

カモ    『こちらこそ、色々ご無理を言ってしまい、申し訳ないです。』

カモは完全に毒気が抜かれた。反社真っ盛りな方が来られると思っていたので、物腰の柔らかい、穏やかな紳士の登場にカモとみのりさんはキョトーンとしてしまった。

いつもの取引のように、名刺交換を行う。

カモよりは年上だとわかったが、笑顔が爽やかで品があり、とても怖い人には思えなかった。

一通り挨拶が終わると、早速取引に入った。

名刺を見ながら一人一人の顔を眺めてみた。今までのメンバーと違うのは、みんな恐ろしいほど几帳面にスーツを着こなし、柔和な物腰であることだ。

いつもとは違う程よい緊張感が新鮮で、少しホッとした。

不動産取引はいつもと変わらず順調に進行した。重要事項説明が始まる。

宅建士の先生は、取引に慣れているのか、自分が今まで経験した取引の中で最もスムーズだった。みのりさんは、しきりにメモをとり勉強しているようだった。

カモ(っていうか、みのりさんも宅建士なのに、この宅建士の人はベテランオーラがすごい…。)

重要事項説明が終わり、現金を引き出すための書類をせっせと書いた。

集中して書類を書いているカモに向けて、突然矢が飛んできた。

弁護士『何か、お聞きしたいことはありますか?』

弁護士の先生が穏やかな口調で述べた。

聞きたいこと、カモはいっぱいあった。でも聞くのが怖かった。

このまま行けば、取引はスムーズに終わる。

カモ(敢えてここで、眠れる龍の逆鱗に触れなくても良いんじゃないか?)

でも抑えきれなかった。

カモ    『今回、この物件を買うに当たって、私が1番手だったと思っていたのですが…。』

みのりさんは、一瞬、(ノ∀`)アチャーって顔をしたが、興味があったのか目を輝かせていた。

弁護士『その件なんですが、実はカモ先生が一番なのは一番だったのですが…。』

カモ    『はい…。』

弁護士『言いにくいんですが、売り主の社長の所に電話したのが一番だったんです…。』

カモ 『えっ…。』

弁護士『そして私の所には、一番の人が3人いたんです…。』

カモ・みのり『えぇっ!?』

カモとみのりさんは、びっくりしてお互いの顔を見つめ合った。

弁護士『私の所にほぼ同時に3人から連絡が来ました。その中で、一番遅かったのが、カモ先生なんです…。』

カモ・みのり『えええええええええっっ!?』

ビックリするカモ

銀行内に大きな声が響き渡る。

ちょうど取引用の現金を持って入ってきたニーガンが『びくっ!!』っとなっていた。

弁護士『売り主の社長の所に連絡をしたのは、確かにカモ先生が一番だったようですが、私の所にカモ先生から連絡が来たのは、他の2人よりも少し後だったんだす。わずかでしたが…。』

カモ    『つまり…売り主の社長の所には一番手だったけど、本来連絡をしなければいけなかった弁護士の先生の所に連絡したのは3番手だったと…。』

弁護士『はい…。まぁでもほとんど差がなかったので…。』

カモはみのりさんをチラッと横目で見た。

カモの視線に気づいたのか、みのりさんはサっと目をそらし天井を見つめている。

カモ(ちょ・・・。)

みのり(そういえば、売り主だった社長の所に電話して、弁護士さんの方への連絡が遅れてしまったような…)

カモ    (コイツ・・・・。)

カモ    『それで、結果としては僅差の3番手だったから、値段交渉出来なかったんですね…。』

弁護士『そうなんです…。』

カモ    『つまり…もしもみのりさんが社長ではなく、弁護士さんにすぐ連絡していたら…。』

弁護士『1番手だったかもしれませんね。それほど差もなかったですし。』

みのり『・・・。』

みのりさんの方を見た。

今度はうつむいて、書類を読んでいるふりをしていた。

カモ(コイツ…絶対書類読んでないだろっwww)

弁護士『それで、最初に私に連絡してくれた方と、その次に連絡してくれた方がほぼ同時だったのですが、次に連絡してきてくれた方が720万円を提示していただいたので、そちらの方に決めさせていただいたということです。』

カモ    『そうなんですか…。』

弁護士『カモ先生には申し訳ないと思ったのですが、実際、僅差ではありますが3番手だったので…。』

カモ 『ありがとうございます。納得しました。本当、こちらの勘違いで何から何まですみませんでした。てっきり値段が高い人に順番関係なく売ることになるのかと思っていました。』

弁護士『確かに、2番に連絡してくれた人が720万円を提示された時は、1番の人と連絡がほぼ同時だったので、売り主のためにも利益を優先しました。ただ、1,2番手の人よりもかもねぎ先生は明らかに遅かったので、個人的にはあまり賛同出来ないかなと思いました。やはり慣習とはいえ、ルールですし、それに土地の評価額に対して価格が乖離し過ぎるのもどうかと思いまして。』

カモ    『そうなんですか、すみません。こちらの勘違いで、弁護士先生に対してすごく失礼なことを思っていました。』

弁護士『いえいえ、結果的にかもねぎ先生にお願いすることになったので、細かいことは気にしないでください。こちらとしても、物件の反響が多くて、情報が混乱して対応に不備があったので申し訳なかったです。』

弁護士の先生の説明は、一貫していて合理的であった。

1番に連絡したが、それが売り主の社長に1番だっただけで、本当に連絡しなければいけなかった管財人の弁護士さんの所には3番だった。

後から値段交渉していたのは、カモ自身だった…。

恥ずかしい、穴を掘って冬眠しなければいけないくらい恥ずかしかった。

カモ    『あの…みのりさん??』

みのり『ビクッ Σ(,,ºΔº,,*)』

カモ    『だそうですよ…?』

みのりさんは、一瞬こっちを見た。非常に気まづそうな顔をしていた。

みのり『あ、そう言えば裁判所の許可はどうして下りなかったんですか?』

弁護士『それは、個人情報なのでお答え出来ません。』

みのりさんは必死に話題を変えた。

今回の騒動、どうみてもみのりさんのミスに思えて仕方が無い…。

弁護士『さっきも言った通り、かもねぎ先生は3番手だったので、もうおひとかたに連絡させていただいたんですけど…』

みのり・カモ『けど?』

弁護士『もうおひとかたも、裁判所で許可が下りなくて…。』

カモ・みのり『えっ!?』

弁護士『それで今回、かもねぎ先生にお願いすることになったのです。』

カモ『そうだったんですか。事情はわかりました。でも2人も裁判所で許可が下りないことってあるんですか?』

弁護士『しばしばあるみたいですね。理由は様々ですが。』

みのり『本当、ごめんなさい!!』

みのりさんが突然大きな声でこっちを向いて謝ってきた。

カモ    『やだなー、みのりさん、その件は後でゆっくり話しましょうよ。』

みのり『(((((( ;゚Д゚))))))ガクガクブルブル』

司法書士『あの…準備が出来ましたので、手続きを進めても良いでしょうか?』

手続き中だったことをすっかり忘れていた…。

前日、色々不安で眠れなかったけども、今も何かもやもやした気持ちがあるけども、カモはなんとか無事に決済を終えることが出来た。

書類の手続きも全て終わり、真っ先に仕事を終えた司法書士の先生が先に部屋を出た。

司法書士さんが帰った後も、せっかくだからと思い弁護士の先生に色々教えてもらった。

今回のような取引についての対応方法、破産の手続きについて、競売物件について、そして今後の不動産投資について…。

弁護士『今度また連絡くださいね、次こそは1番で(笑)』

爽やかな風と一緒に、弁護士の先生は秘書が呼んだタクシーに乗り込み去って行った。

カモ    『この弁護士先生、神だ…。』

みのり『そうですね、本当ステキな人でした。』

弁護士先生と宅建の先生を見送り、ニーガンにもお礼を言った。

ニーガン『カードローンの支払い、頑張ってくださいねっ!!(天真爛漫の笑顔』

カモ(こいつ…捕食者の顔をしてやがる…。)

みのり『頑張っていきましょっ!!』

カモ    『みのりさんは、後でゆっくり話しましょうね、社長にごめんなさいしながら…』

みのり『(||゚Д゚)ヒィィィ!』

銀行からの帰りにみのりさんの勤める不動産事務所に行き、社長に事の顛末を伝えた。

社長    『つまり…これはみのりのミス…ってことだよな』

カモ    『ミスっていうか、弁護士さんへの連絡が遅れた感じですかね。』

社長    『1番手だと思っていたら、違ったとか、本当恥ずかしいな…。カモ先生すまなかった。』

みのり『ごめんなさい。』

カモ    『でも結果的には、なんとかなりましたし…』

社長    『まぁ、ご飯でも行こうか。お詫びと言ってはあれだが、ご馳走させて欲しい』

カモ   『ぜひっ!!!』

みのり『ぜひっ!!!』

社長   『いや、今日はお前の給料から天引きだからな』

みのり『ヒィィィィィ(゚ロ゚;ノ)ノ』

そんなわけで、無事取引が終了したお疲れ様会を開いてもらった。

カモ 『いろいろ疲れた…。』

みのり『これからも宜しくお願いします。』

泣いたり、笑ったり、(カモの下ネタに対して)怒ったり…本当、忙しい人だ。

でも、この人と一緒に不動産投資の道を歩んで行けたらどんなに楽しいだろう…。


いつも物件を契約する度に学ぶことがある。

でも今回は想像以上のことを学んだ。

不動産、破産処理、裁判所、弁護士の先生…。

新しい知識に加え、いい出会いもあった。

いろんな人が、いろんな法律が、いろんな手続きが、不動産投資には待ち構えている。

ある意味恐ろしい。でもそれが面白いのだ。

2年くらい前の話なのに、この取引だけは鮮明に覚えている。

この頃の自分は、闇の深いこの業界の上部だけしか知らないことを痛感していた。不動産の知識も経験も少ないことが情けなかった(生まれながらの地主になりたい人生だった)。

(まゆずみ先生ごめんなさい)

スポンサーリンク
レクタングル(大)広告
レクタングル(大)広告

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする