#34.物件No.5 狭小駐車場(その7)

罠にかかったカモ

月曜日。狭小駐車場の価格と購入者が決定する日。

午前10時頃にその電話は鳴った。

前日、売り主から直接自分に売りますと言われたこともあって、

カモ先生は、『手続きの話かな?』と思い、余裕な気持ちで電話に出た。

カモ『みのりさん、おっはあああああ!!(元気いっぱい』

これから始まる、打ち合わせ、決済。

みのりさんと過ごせる時間を想像して、カモのテンションは高かった。

みのり『あの…狭小駐車場…、後から来た人に買われました…。』

・・・・・。

・・・・・・・・・。

カモ『・・・・・・・・・・っ!?』

言ってることがワカらねぇや

一瞬、意識を失いそうになるくらいの衝撃を受けた。

この瞬間も、理解が追いつかない。

カモ『えっ・・・えっ?・・・・・えぇぇぇぇえぇぇぇlっ!?』

みのりさんは続けた。

その言葉に抑揚はなく、まるで機械のような声だった。

みのり『価格は…720万円でした。』

カモ『ちょっ…ええええぇぇぇqあwせdrftgyふじこlp  qあwせdrftgyふじこlp』

完全に言葉を失った。

10秒間くらい、お互い言葉を発することが出来ず、沈黙が続いた。

電話の向こうからは、救急車のサイレンのような音が聞こえていた。

後出しジャンケンの人が購入した価格は720万円。

720万!!

当初、売り主から売りに出されていた価格が、700万円。

カモ自身が買い付けを出した金額も700万円。

その後、後出しジャンケンの人が出てきたので、カモは800万円まで出すと言ったのに…。

破産管財人の弁護士さんは、『それは受け付けない』と断ったので、てっきり後出しの人が800万円以上の金額を出されたと思ったのに…。

それがたった+20万円っ!?

カモ『あの…事態がよく飲み込めないのですが…。』

みのり『私もです…。』

誰だ、開口一番『おっはああああ!!』とか脳天気なことを言ってたのは…。

これじゃあ、『おっはあああああ!!』ではなく、

おうおうおうおうおうパァンッパァンッ(ヒレを叩く音)じゃないですか(錯乱。

何が何だかわからない

カモ『えっと…。結論から言うと、買い付けに負けた…?っていう事ですよね?』

みのり『そうです…。』

カモ『買えなかったってことですよね?』

みのり『そうです…。』

カモ『昨日、売り主が、私に売ってくれるって言ってたんですよね?』

みのり『そうです…。』

カモ『社長がそう言ってくれましたよね?』

みのり『そうです…。』

カモ『みのりさん、さっきから 「そうです」しか言ってませんよ?』

みのり『…そうです…。』

壊れたロボットのように、『そうです』を繰り返す。

感情を完全に失ってしまっている。

カモ『みのりさん、笑っていいともの観客みたいになっていますよっ!!』

みのり『そ…そーですね…。』

これは微妙にのってくれているのっ!?のっかってくれてるの?wwww

カモ『みのりさん、しっかりしてくださいっ!!』

みのり『・・・・・・。ゴメンナサイ』

このままでは全然話が出来ないので、とりあえずお昼に再度こちらから電話をするように伝えた。午前中の外来業務は、何とかこなすことが出来ていたが、頭の奥底ではクエスチョンマークがグルグルと回っていた。

っていうか、社長wwwww

何ぬか喜びさせてくれてるんですかっwwwww

>色々、知らないこと、怖いことはあるけども、みのりさんがいる、社長がいる。

>みんなが支えてくれるから、不動産投資 頑張れる気がした。

前言撤回っ!!

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いし、恥ずかしいセリフ過ぎるだろwwww

頑張れないってっ!!心ポッキリ折れてるって!!

極細ポッキー並にボッキボキだわっ!!

中二病を急性期発症した時に書いた日記を、大人になって偶然発見してブルブル悶えるあの感覚、それを200倍くらいにしたような、全身、全臓器がゾワゾワする感じを味わった。

ちょっと何コレ!!何っ!?罠っ!?

えぇぇええええええ!!!

頭の中がパニック状態で、震えが止まらない。

電話の向こうでは、みのりさんが泣いている。

もう…これはどうしたらいいんだろう。


とりあえず、みのりさんの勤める不動産会社の社長に電話してみた。

社長『カモ先生か…。』

カモ『何の用かはわかるわね?』

社長『あぁ、この電話も遅いと思ったくらいだ』

カモ『ねぇ、社長。あなた、何をしてるか わかってるの?』

社長『もちろん、カモ先生に謝るのが俺の仕事だ』

電話する社長

そんなブラックラグーンの15話みたいなやり取りをしながら、単刀直入に社長に尋ねた。

カモ『一体、何が起きたんですか?』

社長『破産管財人の弁護士さんが出てきて…な』

カモ『あの弁護士さん…。』

社長『弁護士の正義に則って、高い値段をつけた人に売りますと。』

カモ『正義…ですか。』

社長『まぁ、正義っていう概念はな、不動産業界にはない。持てる知識・経験・人脈、全てを駆使し、あらゆる可能性の中で道を探しながら挑むのが不動産投資だ。カモ先生とみのりにはそれが圧倒的に足りなかった、それだけだ。

カモ『こんな規模が小さな物件に、そこまでしますか!?』

社長『そこまでするのが、不動産なんだよ…。』

カモ『じゃあ、この勝負は…。』

社長『カモ先生とみのりの負けだな。』

カモ『持ち主の(破産した)社長は、私に売ってくれるって言ったんですよねっ!?』

社長『言った。しかし、会社が破産した今、一番強いのは、破産管財人である弁護士の先生だ…。あの社長に決定権はない。』

カモ『っていうことは、もう完全に負けですよね』

社長『うむ、現時点ではカモ先生、そしてみのりの敗北だな』

カモ『ですよね…。』

社長『破産処理とか、裁判所絡みの物件は普通の取引と違って、こういったトラブルが多いからな、勉強させてもらったと思えばいい。』

カモ『そ…そうですね…。』

これでこの取引は終わった…。そう思うと急に全身の力が抜けた。

残念な結果になってしまったけども、カードローンの金利はかかっているけども、

とりあえず今は一息つこう。

社長『ただし…』

カモ『ただし…?』

社長『トラブルが多いってことは、最後の最後…蓋を開けるまで分からないってことだ。』

社長が言っている意味がよくわからなかった。物件の締め切りはもう過ぎて、買い手と値段まで決まっている、もう勝負はついた、私の負けだった。

社長『まぁ…とりあえずカモ先生、今は自分の仕事に専念しなさい』

カモ『わ、わかりました』

社長『健闘を祈る』

祈られても困る…、カモには、もう何も出来ることはない。

何か腑に落ちないまま、電話が切れた。

敗北…。

不動産投資の知識やスキルが足りなかった。

社会経験も足りなかった、人脈も、お金も、何もかもが足りなかった…。

社長が言った、『そこまでやるのが不動産投資』という言葉。

正直、そこまでやられたら、不動産投資を始めたばかりの素人は勝ちようがない。

不動産投資で勝つということ、それはそういう世界に足をツッコむと言うことなんだろうか…。

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