#100. 一法人一物件スキーム(その1)

カモ『ここかな…』

地銀の支店長がくれたメモに書かれた場所は、商店街の外れにある雑居ビルの2階だった。

事前に電話でアポイントをとったけど、電話に出てくれたのは優しそうな声のお姉さんで、

『カモ先生ですね、お話は聞いています』

と言って、スムーズにアポイントをとってくれた。

声の優しさから、きれいなオフィスビルにある、ガラス張りの事務所を想像していたけど、メモが指し示している場所は、どう見ても旧耐震の汚い雑居ビルの2階部分だった。

入り口のドアの横には、木で出来た表札があって『とみかわ(仮名)司法書士・行政書士法務事務所』と書かれていた。見た目的には、『とみかわ経済研究所』って書いててもおかしくないくらいの雰囲気を醸し出していた。

向かいのドアには『ラブ〇〇〇』という謎の文字にハートのようなロゴが書いてあり、このビル大丈夫かな?と思った。

カモ『ここ、本当に司法書士さんがいるんだろうか…??司法書士さんよりも反社の人の方が多い気がする…』

そんな第一印象を抱きながら、恐る恐るドアを開けた。

事務所

カモ『あ…この光景、ウシジマ君で見たことあるやつ!!!』

ドアを開けた次の瞬間、事務所内の人の視線が一斉に自分に刺さった。

目を合わせたら殺られる…そう思って鋭い視線から逃げるように、目を上の方にそらしたら、それはそれで事務所内に祀られていた神棚を見つけてしまい、これはこれで見なかった方がよかったやつ!!って後悔した。

直立不動のまま恐る恐る声をかけた。

カモ『あの…13時に面談の予約をさせてもらったカモ先生と言います…』

事務員『伺っています♪ せんせーい!!カモ様が来ました!!』

一番手前に座っていた茶色のロングヘアーの若い女性が対応をしてくれた。

『あ~い』

隣の部屋らしき場所から、やや低めの声が聞こえてきた。

カモ(なんだろう…この時点でもう帰りたい…)

そう思った時、隣の部屋から司法書士の先生らしき人が姿を現した。

リーゼント司法書士

カモ『うわ…なんか全然司法書士っぽくない!!!!(失礼)』

スーツに眼鏡は普通だけども…なんだろう…

どうしてこの人はリーゼントなんだろう。

えっ…司法書士の世界ってリーゼントが普通なの??

不動産業界とか保険業界はツーブロックが主流だけど、

司法書士業界はリーゼントなの??

Twitterで予習してくるの忘れてたっ!!

いろんな疑問が浮かんだけど、そこは何となくいじってはいけない気がしたので、なるべくリーゼントは凝視しないようにした。

司書『カモ先生、初めまして。司法書士のとみかわと言います』

※以後、この司法書士の先生はリーゼントと名付けた。

カモ『はじめまして』

司書『こちらでゆっくり話しましょう』

そういって、さっきまで司法書士のリーゼント先生がいた部屋に案内された。

部屋に入って早速、名刺交換と軽い自己紹介がされた。名刺を見ると、確かに司法書士って書いてあった。

名刺に書いてある司法書士の『士』が『土』になってないかとか、『司法書士』の文字を何度も確認した。でも書かれている文字に間違いはなく、リーゼントだけどやっぱり本当の司法書士なんだと思った。

司書『早速、本題に入りましょか!!』

スイッチが入ったように、急に司法書士の先生の口調が変わった。

司書『カモ先生も忙しい人なので、簡潔・迅速に物事を進めてあげてって地銀の支店長さんからも言われてますし』

カモ『地銀の支店長とは仲良しなんですか?』

司書『この事務所始める前からのおつきあいというか、この事務所を構えるきっかけをくれたのが支店長なんだからw』

カモ『そんなつながりがあるんですね…』

司書『その支店長が、今一番面白い人間って紹介してくれたのがカモ先生だから、今日は期待してましたよwww』

カモ(面白いって何だろう…)

いろいろな不安を感じてカモ先生が緊張していると、司法書士の先生は、支店長との出会いとか、どうして事務所を開くことになったのかとか、その辺のお話をしてくれた。見た目はちょっと怖いけど、口調は意外と優しかった。

司書『早速ですが…カモ先生、一法人一物件スキームやりたいってことですよね?』

司法書士の先生が単刀直入気味にぐいぐい来た。

カモ『このご時世でも、可能ですか??』

そう、すでに一法人一物件スキームは世間には広まっていて、どう見ても周回遅れのスキーム感があった。

司書『カモ先生だったら…カモ先生が支店長が言うとおりの方でしたら可能だと思いますよ?』

カモ『まじですか??』

司書『その代わり、融資までは出来れば時間がほしいですね…すぐでもいけることはいけると思いますが…』

カモ『どのくらいですか??』

司書『1年です、せめて1期の決算を出してからの方が良いですね』

カモ『逆に言うと、1年経てば法人での融資は可能なんですか?』

司書『可能ですね、軽く1億はいけるんとちゃいますか?』

カモ『まじでwwwwww』

司書『正確に言うと、一法人一物件スキームであって、一法人一物件スキームではないんですよ、支店長が提案しているこの手法は…』

カモ『えっ…一法人一物件スキームであって、一法人一物件スキームではない??』

司書『そもそも一法人一物件スキームは、法人を作ってすぐに融資をもらって、また新しい法人を作ってさらにそこで融資をつける、そんな焼き畑農業みたいなやり方ですからw』

司法書士の先生に改めて言われると、なんてひどいスキームなんだろうと思った。

司書『今回、支店長とカモ先生がやろうとしているのは、一法人一物件スキームっぽく見えるけど、ただ単に法人を作ってそこで不動産を取得していく方法ですから。一法人一物件スキームが焼き畑農業なら、カモ先生がやるのはプランテーション農業に近いかな』

カモ『プランテーション…農業??』

司書『そう!!広大な農地に資本と安い労働者を入れて、どんどん作物作らせるやつ!!

カモ『資本と…安い労働者…』

この時点でいやな予感アンテナがビンビンと立っていた。

司書『資本は銀行からの融資ですね、安い労働者っていうのは…』

カモ『僕のことですね、わかります(白目』

それは・・・

支店長はカモ先生の現状について正確に説明してくれていると分かった。
そして必要以上に詳しく伝えているなと思ってめっちゃ怖いと思った。

司書『もちろん、このやり方は法人の方でも利益出さないといけないので、カモ先生は修羅の道を歩むことになっちゃうけどねwww』

修羅の道…なにそれ??おいしいの???

っていうか、今以上につらいことってあるのかな??すでにもう労働地獄なんですけど…

この時、この変なリーゼントの司法書士さんまで関わってくるとか、僕の人生がどんどんややこしくなっていくような気がしていた。

そう思うと、この一法人一物件スキームに手を出すことが怖くなった。

法人作りをやめよう、僕はもう十分働いている、もうこれ以上頑張るのは無理だ、今ならまだ何もなかったことに出来る、そんな考えが頭をよぎった。

でも、このままだと物件は買えない。

与信は尽きたし、回復する見込みもない。

ここまで来たらやるしかない!!好きな人の笑顔を見るため、僕は改めて修羅の道を歩むことを決めたんだ。

カモ『もとより、修羅の道は覚悟の上です』

そう言うと、司法書士の先生はにこって笑って言った。

司書『じゃあ、早速法人作っちゃおうかw』

カモ『お願いします!!』

司書『法人なんだけど、株式会社と合同会社っていうのがあってね』

カモ『ゴウドウガイシャ??』

司書『株式会社の方がかっこいいけど、設立費用とか会社の維持費がかかっちゃうかな』

カモ『じゃあ合同会社で!!(即決』

司書『まぁ待てwwww早まるなwwwwほかにも違いあるからwww』

そういって、リーゼント先生は株式会社と合同会社の違いを鳥頭でもわかるくらいにかみ砕いて教えてくれた。

合同会社だと設立時の登録免許税が安いこと、役員の任期や決算の公告義務がないこと、その代わり社会的信用度が株式会社に比べて低いことや代表者が代表取締役を名乗れないこと、代表社員っていう微妙な肩書きにになってしまうことなどを教えてもらった。

司書『あと、合同会社は株式上場出来ませんけど、一法人一物件スキームなら関係ありませんねw』

カモ『上場って、あの鐘鳴らすやつですか??』

司書『なにそのふわっとして限定的なイメージwwww』

カモ『そもそも一法人一物件スキームで上場したらやばいですよね…』

司書『やばい(語彙力』

カモ『いろいろ考えてもやっぱり合同会社ですかね…』

司書『俺もそう思う!!じゃあ合同会社で作ろっか!!』

カモ『お願いします!!』

そう言うと、リーゼント先生が書類の束を机の上に置いた。

司書『じゃあ、早速だけどこれを仕上げてきてねっ!!』

カモ『これは…』

司書『合同会社設立チェックシート。ざっくり言うと、どんな会社を作りたいかっていう計画書みたいなもんだね』

カモ『会社の…計画書…』

司書『そう!!どんな会社を作りたいか、どんなことをやっていくのか、そしてどんな未来を描くのか、家に持って帰ってこの書類に書いてきて!!』

カモ『了解です!!』

司書『ほかに何か聞いておきたいことある??』

法人とか合同会社とか、いろいろ聞いてみたいことはたくさんあったけど、カモ先生が一番知りたかったことを聞いてみた。

カモ『どうしてリーゼントなんですか?』

司書『えっ…初対面でいきなりそれ聞く??wwww』

カモ『すいません、どうしても気になったので…』

司書『初対面でそれぶっ込んでくるのカモ先生が初めてよwww』

カモ『すいません、どうしても知りたくて…』

司書『そんなにwwwwじゃあカモ先生にはこっそり教えよう!!それはね…』

このリーゼント、無駄にもったいぶった言い方をするせいで、それはね…の先がすごく気になった。

司書『ポリシーや!!』

カモ『ポリシー…』

そうして、カモ先生は無駄にすっきりとした表情で、ヤクz司法書士事務所をあとにした。

カモ『別の司法書士さん探そう…』

強くそう思った。

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