地銀からとうとう融資オッケーの返事をいただいたので、早速購入の手続きに入った。
みのり『重要事項説明はどこでしますか?』
カモ 『当直のせいでしばらく病院から出られないんですけど…』
みのり『えっ…どうしてそんなに働いているんですか??』
カモ『誰かさんが休日も働こう♪って言ったからだよっ!!!』
僕の土日祝日をことごとくデスマーチにした主犯が、ニコニコと笑って眼前に立っていた。
何事もなかったように、ニコニコするみのりさんを見て、
このシーンを思い出した。
みのり『じゃあ、病院でしましょう!!』
え…職場で…だと!?
さすがにそのアイデアはなかった。
カモ 『職場に来てくれるんですか??』
みのり『はいっ!!仕事ですから(*´ω`*)』
カモ 『…っていうことは、病院で二人きりになるってことですよねっ!?』
(☆Д☆)キラリーン
みのり『えっ…なに考えてるんですか…』
カモ 『レッツお医者さんごっこ!!』
男なら誰でも夢見た、伝説のシチュエーション。
とうとう夢が叶う時がきたのかもしれない!!
みのり『職場を何だと思っているんですか…』
すごいジト目で見られた。
カモ 『だ…だってすごく久しぶりの重要事項説明ですよっ!!』
みのり『そ…そうですけどもwwっwでも何ですかそのいやらしい手つきはっ!?』
ついつい両手をわきわきしながら、FF全盛期のトンベリみたいに、みのりさんに近づいていた。
カモ 『おっと…ついつい理性を失ってしまいました』
みのり『そもそもカモ先生に理性ってあるんですか…』
投げかけられた言葉に、言い返せない…。
だって、そもそも理性があったらこんなに物件買ってないですしっ!!(断言
みのり『嬉しいのはわかりますけど、重説は重説ですよ…』
そうやってカモを怒るみのりさんは、いつもより優しくて、そしていじわるな顔で続けた。
みのり『でも…本当に良かったです』
何が良かったのか、ちょっと聞くのが怖かったけど、ここは『僕の与信が復活したことを喜んでくれているんだろう』と自己暗示のように強く祈った。
そして1週間後に重要事項説明を行うこととなった。
久しぶりの物件売買に心がおどった。重要事項説明がとても待ち遠しくて、つらい仕事も楽しくなっていた。どんなにつらいサービス残業も全く苦にならなかった。
重要事項説明を3日後に控えた夕方の仕事終わりに事件は起こった。
携帯電話に地銀の支店長からの着信履歴があった。
支店長からの2回の着信履歴は何か良くないことが起きていることを暗に意味していた。
急いでかけ直す。
すぐに支店長は電話に出た。
カモ『どうしました??もしかして金利が0.1%くらい高くなったとかですか?ww』
冗談半分で言った。
支店長『融資なんだけど…審査部から断られちゃった』
カモ 『えっ…』
一瞬、意味がわからなかった。
審査に上げる前、支店長は確かに『フルローンで金利1.1%でいける!!』って言いきっていた。支店長が判断を誤ったことは、カモが御世話になってから1度もなかった。だからこそ、今回の支店長から言い放たれた言葉の意味が一瞬理解出来なかった。
支店長『今までだったら、この物件は間違いなく買えてたと思う。金利も1.1%くらいでね』
支店長の言葉は、重くて全くボケられる要素がなかった。
カモ 『今までとは、違うってことですか?』
支店長『カモ先生の物件の購入スピードが速すぎるという意見が出たのと…』
カモ 『それはそうですけど、遅れることなく返済はしていますし、支払い能力についても…まだ余力がありますっ!!』
支店長『うん、そうだね。支払いはきちんと出来ているし、カモ先生の給料からすると手出しが出ても問題はないと思ってるよ』
カモ 『じゃあ、なぜ断られたんですかっ!?』
融資が下りなかったという現実を受け止められず、語気が強くなった。
支店長『しばらく不動産投資の融資をしぼることになったみたいだね…』
カモ 『それは最近の一連の騒動が関係あったりします?』
世間では、アパート投資が流行し不動産投資ローンの金額が膨らみまくっているというニュースが出ていた。金融庁も注視していた矢先、S銀行がエビデンス偽造による不正融資が発覚。それに続くように、T〇T〇RUやシ〇ケンにも不祥事が続出していた。
支店長『それで…本部はしばらく不動産投資についてはリスクは取らないってことらしい』
確かに、カモが御世話になっているこの地銀は、バブルの時も融資に慎重だったおかけで致命的な被害は出さずにすんだ、それくらい石橋を叩いて渡る銀行だった。
カモ 『思いっきりとばっちりじゃないですか…』
支店長『うん、まぁそうだね…』
恐らく支店長のことだ、きっと色々食い下がってくれたに違いない。
そう考えると、これ以上支店長に言葉をぶつけるわけにはいかなかった。
カモ 『何か…方法はないんですかね??』
イチかバチかの気持ちで聞いていた。
支店長『一つ方法があるんだけど…オススメしないかな』
カモ 『頭金ですか?それても保証会社?』
支店長『カモ先生、正解。後者だね』
カモ『保証会社ですか…』
支店長『保証会社を間に入れてくれるなら、融資は可能らしいけど』
支店長の言葉は弱々しかった。
カモ『金利が高くなるってことですよね?』
支店長『うん、3%超えちゃうね』
カモ 『ですよね…』
そう言った後に、一呼吸置いて支店長が続けた。
支店長『カモ先生、今回は見送ろう』
支店長の提案。いつものトーンがない、感情を失った声。
支店長『確かに、この物件は割安だし3%で買ったとしても利益は出ると思う。でも、カモ先生はもっと買わないといけない物件があるでしょ!?』
ハっと目が覚めたような気がした。
そうだった、僕はみのりさんの実家を買いたいんだ。
支店長『今回は残念だけど…見送って余力を、現金を貯めましょう!!』
カモ 『でも…買うって言っちゃったんですよね…』
支店長『ローン特約付けたでしょ?』
カモ 『はい、付けました』
支店長『じゃあ、融資不可だから大丈夫』
カモ 『そうですけど…』
みのりさんのがっかりした顔が脳裏に浮かんだ。
みのりさんの落ち込んだ姿を想像すると、言葉が出ない。
支店長『大丈夫、私の方からも彼女に言っておくから』
カモ 『えっ…そこまでしてもらえるんですかwww』
支店長『顧客ファーストだからwwww』
カモ 『じゃあ1.1%で融資をくれっ!! 本当、色々すみません…』
支店長『私の方こそ、期待させて申し訳なかった』
そう言って、支店長との電話を終えた。
そしてすぐにみのりさんに電話をしようとした。
電話をしようとした…けど…どう言ったらいいんだろう。
<イメージトレーニング>
カモ 『みのりさん…融資下りませんでした(テヘペロ』
みのり『カモ先生…お別れですね…』
いやいやいやいやいやいや!!
何この悪・即・漸みたいな展開っ!!
これはさすがにないだろう…
さすがに…
(;゚д゚)ゴクリ
ありうる…
約1年、びっしり働いてみたけど、
結局与信は回復してなかったとか…
これは捨てられてしまう可能性…
やばいやばいやばい…。
ちょっと何とか作戦を立てないとっ!!
なんとかしないと捨てられるかもしれない…。
ありとあらゆるシミュレーションをしていたちょうどその時、携帯電話が鳴った。
画面には、『みのりさん』の文字があった。(#84. ハッピーハロウィン(後編)に続く)