カモ 『あの…』
4人の面接官がこちらをじっと見つめる。
幻海師範以外は穏やかな顔をしている。幻海師範はちょっと険しい顔をしてこっちを見つめている。
カモ 『言いたいことではないのですが、お願いがあるのですが…』
面接官『なんですか?』
医学部受験、最後の賭け。
カモ 『4人の先生とお話させていただき、とても楽しかったと感じています…』
ここで幻海師範に視線を集める。幻海師範だけを見つめた。
カモ 『最後に先生の笑顔を見たいなって///』
まさかのド直球っ!!
ありったけの力で打った一発っ!!
一瞬の沈黙。面接官の1人、マスオさんはドン引きしている様子。
宮﨑駿は下を向いてめっちゃ笑ってる。
碇ゲンドウは下を向いてちょっとニヤニヤしている。
多分、この人はプレコのこと考えてる。
幻海師範 『面接試験中に私に笑えとか、セクハラですかwwwww大胆ですねwww』
幻海師範の口角が緩み、わずかな笑顔が見えた。
幻海師範 『合格してここの学生になったら、たくさんお見せできますよ^^』
なにそれ怖いっΣ(゚Д゚|||)
でもまだ逃がさない、ここでもう一度、笑いを取りに行く。
カモ 『合格させてくださいっ!!!』
立ち上がり、ねるとんパーティのノリで手を前に出して頭を下げる。
顔を上げた瞬間、幻海師範の半ば諦めたような笑顔が見れた。
幻海『宜しくお願いします///』っていう返答はもちろんなかった。(当たり前
幻海師範『もし、君が合格したら…講義で会いましょう』
幻海師範は、にこっと笑った。
これがいわゆる『微笑みの爆弾』ってやつかっ!?
でもこれは…
前向きな反応っ!?
『もし』がすっごく気になるけど…
それって、政治家の『前向きに検討します』という意味ではないよねっ!?
と…とりあえず…
ミッションコンプリートっ!!!
これで面接官は全員笑った!!!
よしっ!!(良くない
安心、安全、無害を証明することが目的なのに、芸人カモ先生は笑わせることが目的となっていた。しかも、ねるとん告白スタイルとか教養関係ない…。高尚な笑いとは程遠かった。
こうして、面接試験が終わり、カモの医学部受験(前期)が終わった。色んな意味で
カモ『疲れた…』
面接室から出た瞬間、一気に疲れが出た。
これで…全部終わった(前期試験が)。
燃え尽きた。カモは完全に燃え尽きましたっ!!
面接試験が終わり、校舎を出たら、空は晴れていてまだ明るかった。
両手を挙げ、外の空気を吸い込んだ。息を吐くのと同時に高ぶった神経が少し落ち着いてくる。
校舎の外には面接試験を終えた受験生の姿があり、その解放感からか笑い声や興奮気味みな話し声が耳に入ってきた。
疲れて帰ろうと歩き出したとき、ふと視線を感じた。
その方向へ目を向けると、まばらにいる受験生に混じってカモの方を見つめる姿があった。
予備校のクラスメイトの女の子。確か、自分より面接の順番はかなり早かったはず。
まだ帰っていなかったんだと思っていたら、ゆっくり歩いてきた。
そして、目の前で立ち止まり顔をあげる。
『あの…一緒に帰りませんか??』
えっ…なにこのフラグ!?
いつから僕は村上春樹ワールドに迷い込んだんだっ!?
村上春樹ワールド率高過ぎだろっ!!
カモ 『えっ…』
戸惑いながらも、一緒に帰ることを承諾してしまった。
どうせ帰り道は暇だったからと言い訳をしていたが、下半身は正直だった。
2人で並んで駅に向かって、歩いた。
行きは1人だったけど、帰りは2人…なんか不思議な感じがした。
目標を同じくして、地方から田舎の大学に出てきた2人。
ただ、1年間同じ教室で勉強してきたけども、全く話したことがなかった。
駅で切符を買って、電車に乗り向かい会って座った。そして駅構内のコンビニで買ったお茶とポッキーを食べながら話をした。
試験の問題が難しかったとか、面接でこんなことを聞かれたとか、そんな勉強の話をしていた。でもあまり詳しく聞いてしまうと、自分の合否が気になったり、相手の合否がわかってしまったりする可能性が高いということを2人は気づいていた。
だから、お互いに詳細には触れず、表面的な内容の話だけだった。そのせいで、前期試験の話題はすぐに尽きてしまった。
そんな二人を乗せた電車は通常運転でいつも通り動いている。
お互い話す言葉がなくなった。電車の車内は、家族連れや恋人達の姿が多く、楽しそうな話し声が聞こえていた。
ここだけ、何か気まずいというか、どうしようみたいな空気。
視線はさまよい、なかなか話す言葉が出ない。そりゃそうだ、1年間同じクラスにいたけども、全く話したことがないんだから…。
それでも一緒に帰ったのは異国の地で同郷の人がいる安堵感を覚えたのかもしれない。(正直な下半身の後では説得力に欠けるが。
冬眠前の齧歯類のように、ポッキーを前歯でひたすらポリポリと囓り口にいれた。眼鏡の女の子は、窓に映る風景を眺めていた。
どっちから話始めたか覚えていないけど、予備校生活の話になった。ゲーリー先生に英語を教わって、苦手だった英語の成績が伸びたこと、その話がきっかけになったと思う。講師の先生の面白い話や、予備校時代の辛かった話。そして、お互いについての話…。
来るときは、同じ景色がずっと続いて、長かった移動時間が気がつけば、ゆっくりと終わろうとしてた。彼女がいることで余計なことを考えずにいれた。
いつもの駅に着いた時、すっかり夜になっていた。
駅には彼女の親が迎えに来てくれているらしく、車の停留場まで見送った。
女の子『2人そろって、合格出来たら良いですね』
そう言って目を細めて笑う彼女を見送った。
カモ(2人そろって、合格かぁ…)
2人そろって合格したら、一緒に大学生活を送ることが出来るのかな…。
彼女と一緒に勉強して、サークルして、そしてもしかしたら恋愛して…
だが断るっ!!
残念ながら今のカモに、そんなロマンティックな発想はなかった。
受験は戦争、医学部受験にいたっては、最初から最後まで命(タマ)の取り合いだ。カモは2年間、そうやって受験ソルジャーとして予備校で洗脳教育されていた。
カモ『2人揃って合格?』
そんなの、マラソン大会の『一緒に走ろうね』って言うのとか、求人情報の『アットホームな職場です』とか、AVの『先っぽだけだからっ!!』っていうのと一緒っ!!
信じたらいけないやつ!!
悪魔、悪魔のささやきやっ!!
そんなことを考えながら、カモは家に帰った。
2年間、完全なる禁欲生活を送り、受験戦士として歩んできたカモにとって、目の前にあるフラグをポキポキと折るのは簡単なことだった。
それは極細ポッキーを両手で1本ずつ折ることよりも簡単だった!!(グリコ様ごめんなさい
神様、カモはどうやら村上春樹ワールドの住人ではなかったみたいです…。
<次回、受験編の最終回、合格発表編です。>