#.-25.2次試験(後編)

それは・・・

理科2科目は問題なく終わった。

最初の試験科目ではなかったこともあって、正直あんまり覚えていない。

いつもの記述試験のように、何の感動もなくあっという間に終わった感じだった。

問題は最後の科目、数学で起こった。

苦手意識があった数学。最後の科目という緊張感と、これでようやく解放されるという気持ち、そして失敗したらどうしようという漠然とした不安。

『試験を始めてください』

どことなく不安な気持ちを隠せないまま、試験が始まった。

不安な感情を押し殺してページをめくる。

1問目は確率と数列の混合問題だった。試験問題では必ず出るパターン。

1.〇〇な場合、何通りあるか?

2.△△な場合、何通りあるか?

3.〇〇や△△な場合に限らず、nとかmを用いて数列の一般式にしなさい

4.mが〇〇な時、nを無限大に飛ばしたらどうなる?

の3点セット。基本的にカモは確率がすっごい嫌いだった。

何で嫌いかわからない、まさに生理的に受け付けないという感じだった。

ただ、受験ではそんなことを言ってられないので、ひたすら解いていたがやはり、苦手意識は残っていた。

とりあえず文章を読み込み、1問目にとりかかる。

ためしに数字をぶっこんで見る。

なんかそれっぽい数字出た。

2問目も同様。変数が増えただけ。めんどくさいアルファベットが増えただけ。

とりあえず、数字をぶっ込んで、ガリガリ解いてみる。

ここもそれっぽい式が出てきた。

3問目にとりかかった。問題文を何度も読み込んで式を作った。

文字のまま式を作り、ゴリゴリいじっていくと、それっぽい式が出てきた。

出来…た…のか??

でも、何かが引っかかる。

きれいな式にならない。自分が出したのは、ダラダラと長い式。

カモ『一般式でこんなに長いとだいたい間違えているような…』

そんな不安がよぎった。でも出たものはしょうがない。

4問目、さっきの3問目で出した式を使ってnを無限大に飛ばす。

数式をいじくりまわして、処理すればいいだけ。

いつものように有理化しながら式をグリグリといじくり倒す。

カモ『あれ…??』

ここで異変に気づいた。答えが無限大(∞)に飛んでしまう…。

こういった問題は、nを無限大に飛ばしたら絶対に定数になるのが定石だった。

つまり、答えが『無限大=∞』は間違っているということだった。

どこで間違えた…!?

一瞬変な汗が出た。4問目が違うということは、3問目を間違えているのは間違いない。

こんなに汚くて長い式が正解のはずがない…。

『数学はいつも美しい』

予備校の数学講師の口癖だった。

数学者は、その美しさに惚れて数学をする、だからこういった試験問題で美しくないものは絶対に間違っている。そう言われながら2年間勉強してきた。

もう一度、式を組み立て直す。

ダメだ、やっぱり同じ式になる。

確率の問題で3問目の答えが違う、それは1問目からすでに不正解であるということを意味していた。つまり、1問目、2問目、3問目と全滅しているということだった。

1問目からいきなり解けないとか…体がぞわっとして、急に目の前が闇でかすんだ。

カモ『やばい…』

何度解き直しても、同じ式にしかならない。

1問目から解き直す。何度も何度も…。

でも何度解いても同じ答えしか出てこない。

∞の記号のように同じ道順を何度もなぞっている感覚。
きれいな数式が見えてこない。



時間は刻々と過ぎる。

斜め前に座る、クラスメイトの眼鏡女子の背中が遠のいていくような気がした。

急に焦りがでた。模試の時は、すぐに他の問題に移ることが出来ていたはずだった。
本番の試験、しかも最後の教科というプレッシャーが重い鎖となってその問題にカモを縛り付けた。

気がつくと、何も出来ないまま30分が経過していた。

カモ『もう…これはダメかもしれない…』

嫌な思いがフラッシュバックした。
2年前、初めて記述模試を受けてボコボコにされた時の思い出が頭を占拠する。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

問題用紙を前にして目を開けないままどうしようどうしようとパニックになっていた。

目の前の解けない問題が頭も心も占領して答案は何一つ進まない。
刻々と進む時計の針が逃げてる背中から追ってくる。
動揺した心の暴走は制御がきかなかった。
あかん…これは本当にあかんやつ…。

ゲーリー『何してんだよwwww』

ゲーリー先生

その瞬間、ハッと我に返った。いつもの声、2年間聞き続けた声。

カモ 『1問目から…つまずいちゃって…』

ゲーリー『で??』

カモ 『1問目から出来ないとか…これはやばいやつじゃ…』

自分の中の弱気が顔を出す。
1年前の何も変わっていない自分が嫌になる瞬間。

ゲーリー『じゃあそれは捨てろwww』

カモ 『え…』

ゲーリー『最後に時間が余ったら解けばいいだけだwww問題の順番なんて関係ないだろwww』

カモ 『…( ゚Д゚)!!』

ゲーリー『こいつは…お前、模試の時はいつもそうしてただろwwwwほら、次のページをめくれ!!』

カモ 『でも…もう時間もだいぶ使ってしまってて…』

刻々と過ぎる時間。数学が始まって時間はかなり過ぎていた。

ゲーリー『大丈夫だ。その1問、完全に捨てても、まだお前は先頭集団の中を走っている。そうだろ?』

カモ 『そ…そうなんですか??』

ゲーリー『あぁ、だからここで止まるな、走れ!!

カモ 『でも…』

ゲーリー『でもじゃねぇだろwww立ち向かえ!!』

僕の中にいるゲーリー先生は、諦めることを許してくれない。

立ち向かう…

ずっとゲーリー先生が好きで、カモに貸してくれた筋肉少女帯の曲が流れる。

ゲーリー先生のオススメは、『最後の聖戦』というアルバムだった。
大槻ケンヂの華奢なのに力強い声が聞こえてくる。


カモ『この曲、つらいときによく聞いたな…』

速いテンポの曲と反して、鼓動は少しずつ落ち着いてきた。

そしてシャーペンを握り、深呼吸をすると、筋肉少女帯はゆっくりと消え、鼓動の音が聞こえた。

カモ『行きますっ!!』

ゲーリー『Run!! Forest!! Run!!』

確率の問題の番号の所に大きな馬の印を付けた。競馬好きなゲーリーがよく書いてくれた馬のイラスト。解けない問題に付けて、後でもう1回解き直すというマーク。

ためらいや戸惑いと決別する瞬間。

ページをめくり、新しい気持ちで問題と向き合う。



2問目、微積の問題。
式を作って、その式の変数を無限に飛ばして、グラフを描いたらほぼ終わる。
あとは、そのグラフを見ながら、ガリガリ計算したら良い問題。
わかりやすく、芸術的に曲線を描く。

『女性の体のラインのように、優しい円を描くんだよ』

予備校の数学の先生は、数学を女性のように愛していた。
グラフはきれいに、式に忠実に描くように訓練してもらった。

そして、カモにも『数学を愛しなさい、女性を愛するように…』と教えてくれた。

ただ、出来れば数学よりも女性を愛したかった。

グラフを描いたら、指示された数字をぶっ込んで答えを出す。
そしてそのグラフをぐるっと回転させて、3次元の絵を描く。
その絵に基づいて、体積を計算して終わり。

『グラフを回転させる時はね、女性のくびれのラインのように描くんだよ』

カモ『はい、先生っ!!』

美しい答えが出た。多分合ってる。社会的には間違っているけど

3問目、ベクトルの問題。
空間に点を打ち、その点をつなげて絵を描く、3次元のベクトル問題。
ベクトルは、なぜか自分に合っていた。

絵を描いて、数字を入れて方程式をゴリゴリしたら解ける。

カモ『良かった、いつもと一緒!!』

カモ『ベクトルはいいね…ハミルトンの生み出した数学の極みだよ。』

いつもの調子が戻って来た。

ベクトル方程式も美しい姿を保ったまま自分の中にあった。

4問目、関数の極限の問題。

式をいじってグラフを描いて、あとは計算したら終わり。
極限に飛ばす、特に無限に飛ばすのは好きだった。
複雑な式が単純な数字に化ける瞬間、難しいパズルが関税したような快感がある。
ただ、変化に富む複雑な式が、無限に飛ばすことである一転(定数)に帰結するのが、何か漠然と怖かった。

5問目、数列(漸化式)の問題。

純粋に式をいじくれば良いだけだった。
全然関係ないけど、中二病っぽい響きをもつ『漸化式』という言葉が好きだった。
数式を変形させて解くその過程が、姿を変える斬魄刀のように美しかった。
複雑な数式を変形させながら組み立てていく作業、自分のイメージとしては、複雑な暗器を華麗に操る烈火の炎の小金井薫だったけど、

数学を解くカモ先生(理想)

現実はこれだった…。

問題を解くカモ先生(現実)

残酷っ!!

現実は残酷っ!!

そんなわけで、4問解けたっ!!

残りは…丸投げした1問目、確率の問題。

カモ『いけるっ!!!まだ時間は少しだけある!!』

もう一度、解き直そうと思って文章を読み直す。

潜れ、潜れ、もっと深く!!

どこかで何かを見失っているはず。
何かどっかでミスをしているはず。それを見つける。

文章題の後半、少しひっかかる言葉を見つけた。

カモ『あ…』

間違いの場所がわかった。前提となる条件が違っている。
問題を解くときに使う数字が違う。
初歩的なミス。信じていたから疑わなかった盲点。

修正してもう1度解き直す。

1問目の数字が出た。
これは最初に解いたやつと同じ数字だった。

問題は2問目から。ここから式がずれ始める。そして3問目につながらなくなる。

最初に生じたわずかな亀裂が時間が経つにつれて大きく変化する。
はじめは気づかないほどの差。だけど丁寧に丁寧に見返すとそれが見えてくる。危険なほど見えてくる。

数学は丁寧に愛すると、それに答えてくれた。

急いで2問目を解き直して答えを出した。

行けるっ!!

あと2問解けば…あと2問!!

第3問、だらだらと出てくる変数を有理化、因数分解、式のいじくりをしながら簡単な形にしていく。

少しずつ表す、この問題の本当の姿。

ゴテゴテとした姿から、すらっとした美しい姿が少しずつ出てくる。

カモ『これが…君の本当の姿なんだね…』

追い求めていた理想の女性に会えたような、そんな感動があった。

『筆記用具を置いてください』

ここで試験が終わった。

そして僕の受験が終わった。

全身脱力した。

最後の1問は、時間がなくて解けなかった。

悔しかった。あと一歩、あと一歩で解けてた。

でも、後悔はない。2年間の思いを、努力を、自分の今のアイデンティティを全部そこに置いてきた。

筆記試験が終わってからは、幽体離脱して意識まで置いてきそうになったが、それはかろうじてつなぎ止めた。

これで落ちても、後悔はないと思う。

でも、落ちたらまじで生活保護になるかも…\(^o^)/

あのクラスメイトだった女の子、ヒモにしてくれないかなぁ…とぼんやり考えながら、そんな自分に苦笑いをしながら、受験生で混雑している教室の出口が落ち着くのを待った。

そして、最後の面接試験に臨んだ。

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コメント

  1. ぐる より:

    臨場感がありますね!遠い昔、試験を受けてる当時の気分になりました。

    • かもねぎ先生(管理人) より:

      ぐる様
      ありがとうございます!!
      自分もほとんど遠い記憶になっています(笑)。
      ほとんど後半になってきましたが、最後まで記憶を掘り起こしながら頑張るのでぜひまた読んでやってくださいm(_ _)m