2次試験は2日に渡って行われた。
英語・数学・理科2科目。学科試験の後に面接が行われる。
異国の地のホテルで迎えた朝は、思ったより明るく、カーテンを開けると眩しい光が差し込み、これから始まる戦いの激しさを伝えてくるようだった。
ただ…この明るい日射しは、カモにもっと伝えてくるものがあった。
やばい!!遅刻しちゃう!!
時計は7時過ぎを指し、秒針はこの瞬間も時間を刻み続けていた。
カモ『しょうがない、タクシーだ!!』
この時のカモにとって、タクシーといえば超豪華な貴族の乗り物だった。何であんなに高いお金を払って乗る人がいるのか信じられなかった。それほどカモは困窮していた。
でも、今はお金がどうとか言ってられない。
全然お金がないけど、こればっかりはしょうがない。
ホテルの前でタクシーを捕まえた。遅刻して不合格とか、まじで洒落にならない。
ゲーリーにするどいボールペンとかで刺されてしまう。とりあえず試験会場に急いだ。
赤信号で止まる時間、刻々と進む時間。
試験会場までの道のりは覚えていない。それくらい焦った。
タクシーの運転手さんが『今日は天気良いですね?』なんて聞いてくるけど、こっちはそれどころじゃない。天気についてお話する暇があったらもっとアクセル踏んでほしい。(いや、踏んだら捕まるけど、運転手さんが。
険しい顔で時計を見ていたら、外には試験会場が見えてきた。
なんとか試験会場に間に合った。
『お釣りは取っておいてくださいっ!!』
タクシー料金を払い、いつか人生で言ってみたいセリフをとうとう言うことができた。
お釣りは20円だった。
急いで試験会場の教室に入る。教室の雰囲気はセンター試験と変わらなかった。教室にいる受験生の数が少し少ないくらい。
席に座ると、クラスメイトの眼鏡の子が斜め前の方の席に座っていた。
持ち物を机の上に出しながら、試験の開始を待った。
1教科目の英語。
ゲーリー先生との特訓で、英語は完璧に仕上げてきた。すでに覚悟も出来ている。
問題用紙が配られ、試験が始まるまでの間はずっとクラスメイトの女の子を視姦…眺めていた。最後の試験になるかもしれないのに、妙に穏やかな気持ちだった。
試験官『それでは試験を始めて下さい』
いつも通り、召還する。
いきなり全力100%でスタートを切った。
この中二病の儀式は、本気を出す時のスイッチを入れる作業みたいなものになっていた。
英語の試験は簡単な穴埋め問題から始まる。いわゆるよくある英単語と文法問題。
カモ『集中っ!!集中っ!!』
頭の中にある知識を全部引っ張り出して、解答用紙に写す作業。
一問、一問、問題を写し取っていく、考える必要がない、ありきたりの問題。
『こんな問題を解くために、2年間を費やしたのか、違うだろっ!!』
アドレナリンの過剰分泌で周りの景色は見えなくなり、英単語が頭に流れ込んでくる。
ノンストップで英単語・文法問題を解き終わった。
恋する天使の自動筆記はここまで。
ここからは長文問題。
長文は、まず最初に問題文を読んで、どんなことを聞かれているか頭の隅におく作業をする。そして長文を読みながら、回答になる部分にはメドをつける。それがルーティン作業だった。この方法だと内容一致問題で時間が大幅に節約出来る。
内容一致問題は長文を読みながら始末していく。長文を読みながら、頭の隅に置いていた問題文と合致する部分が出たらその部分を丁寧に読んで内容一致問題を片付ける。きっちり内容を読み込めば、内容一致問題は工夫しなくても解ける。ひねった問題は出ないけど、その割に配点が髙い。
下線部を訳せという翻訳の問題は、丁寧に訳した。
長い英文の構文構造をつかみ、型枠にはめ込む。そして英単語をひとつずつ辞書通りの日本語に置き換える。そしてその文章に一番相応しい意味に変換しながら再構成する。1年前の自分はそこで完成だった。2年目の今は、そうして作った日本語訳に、2年間で培った思いを託す。より美しい文章に、採点者に自分の存在を示すように。『俺はここにいる!!』、『俺の回答を見ろ!!』そうやって回答にありったけの気持ちをぶつける。そして最後にもう一度、辞書的意味から逸脱していないか、妄想に引っ張られていないか、客観的な文章になっているか確認して完成する。
そして最後に英作文が待ち受ける。
英作文は、英訳の逆をすれば良いだけなので簡単だった。
①カッコイイ文章を分解して全て辞書的意味に置き換える。
②どの構文を幹にするか選ぶ
③柱を組み立てた後に、分解された辞書的意味(枝)をくっつける。
④細かい表現(葉)を枝にくっつける。
⑤出来た英文をもう一度日本語に訳して、元の問題文の日本語に近づくか確認する。
これで問題なければ、完成。
ゲーリー先生と何度も何度も何度もやってきた作業だった。
ゲーリー『この表現ダサくないか?』
カモ 『え…そうですか??』
ゲーリー『この単語の意味は文脈できちんと拾わないといけないやつだ、下線部だけじゃなくて前後の文脈の流れを考えてから相応しい日本語を選べよ』
問題を解きながら、ゲーリー先生の声が聞こえる。
ゲーリー『いいか、0.1点だ、0.1点でも多く取りに行け!!』
いつも厳しい、いつも通りのゲーリー先生の声。
2人で問題を解き進む。
ゲーリー『ほら、出来ただろ?楽しいだろ、英語は』
その声と同時に、まるで異世界から現実世界に戻ってきたように、紙をめくる音、シャーペンの先が小刻みに机を刻む音、急に教室内の雑音が耳に入ってきた。
試験官『筆記用具を置いて下さい』
英語の試験が終わった。
カモ『ふっふっふっふ!!すでに筆記用具は持っていないんだよっ!!』
試験官『な…なん…だと…』
そんな感じで英語は終わった。
2年間の思いを、思いっきりぶつけることが出来たと思う。
残りあと3教科!!
コメント
よませる!おもしろーい!
ぐる様
コメントありがとうございます。
そう言っていただけると本当嬉しいですヽ(゜▽、゜)ノ