みのり『今度の日曜日、時間空いてませんか?』
当直中、LINEで話をしている時にみのりさんが言ってきた。
えっ…突然なにっ!?って一瞬思ったけど、
この言い方はどうみてもデート…
と見せかけて物件見学のパターンっ!!(いつものやつ)
最近、与信が無くて油断していたけど、パターンを見抜けるほどに成長していた、いや、正確に言えば『飼いならされた』の間違いか…
みのり『今後の物件取引のための、種をまきに行きましょう』
それ、単なる物件見学なのでは…!?
カモ『そんな種まきよりも、僕は大人の種まき(意味深)をしたいです』
みのり『本当、色々重症ですね( ◠‿◠ )』
みのりさんはカモ先生の方をじっと見つめて、ため息をつきながら言った。
与信はまだ復活していない。
いつものように、ただ物件を見に行くだけなのか…
でも『種まき』って何だろう…。
とりあえず、みのりさんと一緒にいられるのだから、『行きますっ!!』と即答した。
そして、当日。
みのりさんは、いつもよりフリフリ感の強い、黒と白で落ち着いた色合いのややゴスロリ的な服装だった。
カモ 『今日はなんか…雰囲気違いますね…いやっ、ステキですよっ!!』
みのり『カモ先生、こういうフワッとした服が好きって言ってたから…』
みのりさんは、照れ笑いをしながら、スカートをちょっと持ち上げて、カモ先生の前でくるっと回って見せた。スカートの裾がふわっと空中で弧を描いた。まるで二次元の世界に迷い込んだような、そんな光景が目の前にあった。
今までの自分だったら、今ので3千万円分くらいの物件を買わされていたくらい、
胸がキュンってした。
あかんっ!!こうやって私は今まで何度も大変な目にあってきたんだっ!!
ものすごく下心(搾取される予感)を感じたけど、
『これはご褒美っ!!普段仕事を頑張っているご褒美っ!!』
そうやってポジティブに思うことにした。
カモ 『今日はどこに行くんですか?』
みのり『今日は、地主さんの所に挨拶に行こうと思いますっ!!(キリッ』
まるで予定通り、全て計画通りだとでも言わんばかりに、はっきりとした口調でみのりさんは言った。
カモ 『なっ…じっ…地主…だと…!?』
カモ先生の脳内は一瞬でざわついた。
twitterで様々な地主様を見かけてきたせいで、『地主』という単語を聞くと、『うわっ…怖い…』って思ってしまうようになっていた。
不動産投資ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
物憂いTwitter部屋でテーブル向かいに座り、いつ喧嘩が始まってもおかしくない、
指値通るかか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。サラリーマンは、すっこんでろ。— まゆずみ君 (@NekoMur) 2018年2月16日
こんなん怖すぎるっwwwwww
カモ『それは…私も一緒に行く必要があるんですか??』
みのり『はいっ(*´∀`*)』
屈託のない笑顔だった。
でも、そもそも物件のやりとりをするわけでもないのに、どこの馬の骨かわからない自分に地主様が会ってくれるのだろうか…。カモ先生の不安げな様子が伝わったのか、みのりさんが口を開いた。
みのり『大丈夫です、社長の方からも連絡が言ってますから♪』
にこっと笑うみのりさんの顔、仕事中はドヤ顔要素が多いけど、そんな表情も大好きだった。この笑顔のせいでお金めっちゃ減ってるけど
カモ 『何で会社ぐるみで連絡してるんだよっwwwww』
あのヤクザのような社長(安岡力也似)が絡んでることで余計、不安になった。
みのり『地主さんも、会いたいって言ってましたよ♪』
カモ 『嘘だっwwwwなんで地主もそんな乗り気なんだよwwww』
右斜め下の視野に、上目遣いのみのりさんが入り込む。
『ふふふふ〜』と悪いことを考えてそうな笑顔で言った。
この笑顔で私の与信はさらに500万円くらい減った気がした
カモ 『えっ…本当に??』
みのり『はいっ♪ 今のうちに、顔を覚えてもらって、将来安く売ってもらいましょうっ!!』
カモ 『何その下心しかない作戦…』
みのり『人間関係を築く作戦、案外、有効なんですよっ!!』
カモ 『そ…そうなんですか?地主は生まれた瞬間から帝王学を学んで、百戦錬磨じゃないですか?関係築くまでにふか〜い腹の探り合いとか無い!?』
みのり『もちろん、人間関係は、時間をかけて構築しないといけませんからね♪ ほらっ、ワイン同様、熟成に時間を要する人間関係もありますから♪』
お前、それ攻殻機動隊の荒巻課長のセリフだろ…
みのり『とりあえず、レッツゴー♪』
もう、嫌な予感しかしない…。
町から車で15分ほど走ると、一面に田んぼの景色が広がった。
その田んぼの海の中に、まるでエーゲ海の離れ小島のように(行ったことないけど)、和風テイストの豪邸がそびえ立っていた。
築年数50年くらい過ぎてそうな和風の建物に見えたけど、門は電動式のシャッターだった。
カモ 『あっ…これよくテレビとかでヤ〇ザ屋さんの門に使われているやつ…』
呼び出し音を鳴らすと、女性の落ち着いた声が聞こえてきて、その後『シャーーー』とお洒落な音を鳴らしながらシャッターが空いた。高級なシャッターは開閉音も静かでお洒落な感じがする。
敷地内は、来る途中に想像していたよりも広く、質素で豪華だった。矛盾するかもしれないけど、本当『質素で豪華』だった。派手さがない庭園だったけど、枝の一つ一つまで細かく丁寧な仕事がされていて、悠然とした雰囲気を醸し出していた。庭にある池は、色とりどり無数の鯉が泳ぎ、訪問者を出迎えてくれた。
カモ 『あー、これは本物の地主さんじゃないですか…』
あまりにも荘厳とした雰囲気に思わず、声に出てしまった。
みのり『本物ですよっ!!市内のアーケード街にもいっぱい土地持ってますし…』
カモ 『これ、場違いじゃないですか?』
庭を歩きながら、みのりさんをちらっと見た。
みのりさんは、鼻歌でも歌いそうな軽い感じで庭の景色を楽しんでいた。
みのり『ほらっ!!カモ先生、あの鯉ちょっとカモ先生に似てますよっ!!』
カモ 『おい…』
何で僕は今、見ず知らずの他人の家でデートしているんだろう。
そもそもこれはデートなんだろうか。
正直、ここは自分のような弱小不動産投資家が来ていい場所なんだろうか。
そんな考えがぐるぐると、池の鯉のように頭の中を泳いだ。
ふと思った。いつもの物件デートのように連れてこられたけど、地主様との関係一つでこの町で生活できなくなるんじゃ・・・
あれ?種まきって勝負の日だったかな…むしろ種まきどころか、僕の人生にラウンドアップマックスロードが散布されてしまうことに…
みのり『大丈夫ですっ!!今日は挨拶だけですし…』
カモ 『今日…は??』
みのりさんの言葉に若干の違和感を感じたが、その違和感を払拭できるほど、ここの庭園は美しかった。普段の生活からtripしたような感覚だった。
玄関までたどり着くと、落ち着いた雰囲気の女性に応接室に案内されて、ふっかふかのソファーに座って、地主の登場を待った。あの女性は奥さんなんだろうか、それともお手伝いさんなのだろうか…気になったけどさすがにぶっ込めなかった。みのりさんに聞いてみようと思ったけど、何かしらぶっ込まれても困るのでそっとしておいた。
由緒正しい本物の?地主様に会うのは、初めてだった。
応接室の壁には、美術の教科書に出てきそうな絵画が飾ってあった。飾り棚には、なんでも鑑定団に出てきそうな置物がたくさん置いてあった。木彫りの熊とか王道なものあるが、多分桁が違う。あれは絶対北海道土産ではないやつ!!
みのり『あれ…1個くらいもらえませんかね…??』
突然、みのりさんが鷹のような陶器の置物を指さして言った。
あかんって!!
あれ絶対マイセンとかコペンハーゲンとかよくわからないけど高いやつだって!!
カモ 『そんなこと言ってたら、さっきの池にいた鯉の餌にされますよwwww』
みのり『カモ先生は、どれが欲しいですか??』
カモ 『僕だったら、あの絵ですね!!なんか高級っぽいですし!!でもこれだけあったら、一個くらい なくなってもバレませんよねっ!!』
みのり『・・・・・。』
あれ?さっきまでノリノリだったはずの、みのりさんのツッコミがない。
地主 『絵はお好きなんですか?』
カモ 『いやぁ、龍の絵が中二病心をくすぐるって言うか…』
気がつくと地主様が背後に立っていた。
やばい、絵を盗って帰る気満々なのを聞かれてしまった…
助けて!!みのりさん!!って思ってみのりさんの方を向いたら、みのりさんは左斜め上の方を凝視していて、頑なにカモ先生から視線を逸らしていた。
いやいやいやっ!!
おまっ…ついさっきまで、そこにあるマイセン(仮)の鷹を持って帰る気満々だったじゃないかっ!!!!
何で今さら『私は関係ないですオーラ』を出してるんだよwwww
あかん・・・鯉の餌にされてしまう!!!!!
どうするっ!? カモ先生っ!? (後編に続く カモ先生が生きていたら)